
過酷な運命を背負った少年のすがたを豊穣な世界を舞台に描く異世界ファンタジー。「守人」シリーズの姉妹編(姉弟編?)、「旅人」シリーズの二作め。『虚空の旅人』のつづき。
シリーズ物につき既刊のネタバレを含みます。
南半球の大国タルシュ帝国の侵攻は、新ヨゴ皇国にとっても現実の脅威となりつつあった。矢面に立たされている隣のサンガル王国からは使者が援軍をもとめてやってきた。皇太子のチャグムは近隣国との同盟を勧めたが、息子を疎んじる帝はこの進言にとたんに機嫌を損ねた。宮廷は成長したチャグムと帝のあいだでふたつに割れそうになっていたのだ。しかし、いまだチャグムは成人前で権力は帝のものだ。サンガルへ海軍を送ることは決定された。指揮を執るのはチャグムの数少ない擁護者で、祖父の海軍大提督トーサである。サンガル王の親書に不審を抱いていたチャグムの元に、サルーナ王女からの書簡が届いた。王女の言葉は不明瞭だったが、先の親書がタルシュとサンガルの罠であることはあきらかだった。しかし、帝はこれを受け入れようとしない。挑発に乗ったチャグムは激高して帝を罵り、サンガルへの援軍に加わるよう命じられてしまう。
読み終えて思いました。ああ、はやく続きが読みたい!!!
安らぐことの少ない境遇であっても、まわりに支えられて育ってきたチャグムくんが、とうとう守られる日々と決別し、みずからの運命を選びとったラストシーンにぐぐぐっと泣けてきてしまいました。なんという物語でしょう。
ものすごく重厚な戦乱ものを読んでいるみたいだけど、それよりももっと肌にじわじわとめりこんでくるものがあります。
濃密な世界の空気感とでもいうのでしょうか。いつも思いますが、においまでがつたわってくるような描写なのですね。とくに南へと移動してゆく船のシーンに、あらたな世界への驚きがたくさん感じられて楽しかったです。ラッシャローのひとたちがまた出てきてくれたのも嬉しかったし。
しかし今回はなんといっても、チャグムくんの前につぎつぎと用意される運命の過酷さに、翻弄されました。異界とのはざまに立ち、異界を見ることのできるかれには、簡単に逃げ込むことのできる場所があるのに、なぜそんなにつよく現実を見据えて進むことができるのでしょう。この気高さ、前向きさ、着実さには、サトクリフの作品と似たところがあるなあ……。私は想像したくもないです、こんなに厳しい現実に直面することなんて。というか、すでに最初の場面で死んでる気がします。サバイバル能力ゼロですから。
大人になるってこんなにつらいことなんですか。なのに少年は顔をあげ、たちあがり、前進してゆくんですね。つよいというのは、つらくて寂しいことだなあと、しみじみ感じてしまいました。これからかれのまえにどんな運命が待ち受けているのかはわかりませんが、孤独な旅を始めたチャグムくんによきパートナーとの出会いをせつに願います。
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